The Yoga Tradition 第2部:前古典期のヨガ(Pre-Classical Yoga)
第2部:前古典期のヨガ(Pre-Classical Yoga)
ヨガの起源から古典期(パタンジャリ)以前までの長い歴史的展開を追う。インダス文明・ヴェーダ時代から、ウパニシャッド・ジャイナ教・仏教・叙事詩の時代までを網羅する。
第1章:Yoga in Ancient Times(古代のヨガ)
インダス文明との関係(紀元前3000〜1500年頃)
- モヘンジョダロ・ハラッパー遺跡の印章に瞑想ポーズをとる人物像(パシュパティ印章)が発見されており、ヨガの原型的な実践の存在が示唆される。
- Feuerstein はこれをヨガの最古の視覚的証拠の一つとして重視する。
ヴェーダ時代のヨガ(紀元前1500〜600年頃)
- リグ・ヴェーダのタパス(苦行・熱)、ディヤーナ(瞑想)、ダルシャナ(幻視)の概念がヨガの起源として位置づけられる。
- ケーシン(長髪の苦行者)賛歌:シャーマン的な修行者の描写がヨガ行者の原型。
- アタルヴァ・ヴェーダ:呼吸(プラーナ)の制御と身体実践の記述。
- ヴラティヤ(Vratya):ヴェーダ主流に属さない苦行集団。後のヨガ・タントラ伝統の先駆け。
第2章:The Whispered Wisdom of the Early Upanishads(初期ウパニシャッドの智慧)
ウパニシャッド(紀元前800〜200年頃)はヴェーダの哲学的集大成であり、ヨガ思想の中核概念が初めて体系化される。
主要ウパニシャッドとヨガ思想
- カタ・ウパニシャッド:ヤマ神と少年ナチケーターの対話。魂の不滅・アートマンとブラフマンの同一性・ヨガの道を説く。「感覚の馬車」の比喩で有名。
- シュヴェーターシュヴァタラ・ウパニシャッド:ヨガの実践技法(座法・呼吸・集中)を初めて具体的に記述。イーシュヴァラへの帰依の重要性を説く。
- マイトリー・ウパニシャッド:六支則ヨガ(プラーナーヤーマ・プラティヤーハーラ・ディヤーナ・ダーラナー・タルカ・サマーディ)を説く。
- マンドゥキヤ・ウパニシャッド:意識の四状態(覚醒・夢・深眠・トゥリーヤ)とOМの対応。
核心的思想:アートマン(個我)とブラフマン(宇宙意識)の同一性(「タット・トヴァム・アシ」汝はそれなり)。ヨガはこの合一の実現手段として位置づけられる。
第3章:Jaina Yoga(ジャイナ教のヨガ)
ジャイナ教(紀元前6世紀頃、マハーヴィーラにより確立)は、ヒンドゥーとは独立したヨガの伝統を持つ。
主要概念
- アヒンサー(非暴力):ジャイナ教最高の倫理原則。後のヨガのヤマにも大きな影響を与えた。
- ジーヴァ(Jiva):生命・魂。カルマ物質に覆われた状態から解放されることが目標。
- アジーヴァ(Ajiva):非生命。物質・空間・運動・静止・時間。
- カルマ論:ジャイナ教独自の物質的カルマ論。行為が文字通り魂に付着すると考える。
- 難行苦行(タパス):食の断絶(サンタラー)を含む厳しい苦行による魂の浄化。
五大誓戒(マハー・ヴラタ):非暴力・真実・不盗・禁欲・無所有。パタンジャリのヤマと深く対応する。
ジャイナ瞑想(プレークシャー・ディヤーナ):身体・呼吸・感情への観察瞑想。現代でも実践される。
第4章:Yoga in Buddhism(仏教におけるヨガ)
仏教(紀元前5世紀頃、ゴータマ・ブッダにより確立)もヨガ的実践を中核に据える。
ブッダとヨガ
- ブッダは出家後、当時の二人のヨガ師(アーラーラ・カーラーマ、ウッダカ・ラーマプッタ)に師事し、無所有処・非想非非想処のサマーディを習得した。
- しかし、それが解脱への道でないと悟り、独自の中道を見出した。
仏教ヨガの主要実践
- 四念処(サティパッターナ):身・受・心・法への継続的気づき。ヴィパッサナー瞑想の基盤。
- 八正道:正見・正思・正語・正業・正命・正精進・正念・正定。倫理と瞑想の統合体系。
- 禅定(ジャーナ):四禅定。パタンジャリのサマーディと対応する意識の深化段階。
- アビダルマ:心理現象の詳細な分析。仏教独自の「意識の地図」。
大乗仏教とヨガ
- ヨーガーチャーラ(唯識)派:ヴァスバンドゥ・アサンガによる「識のみ(唯識)」の哲学。瞑想を通じた意識変容を重視。
- 密教(ヴァジュラヤーナ):タントラ的な技法(マントラ・マンダラ・ムドラー)をヨガと融合。
第5章:The Flowering of Yoga(ヨガの開花)
叙事詩時代(紀元前500〜紀元後200年頃)にヨガは多様な流派へと開花する。
マハーバーラタとヨガ
- インドの大叙事詩にはヨガへの言及が膨大に含まれる。
- バガヴァッド・ギーター(マハーバーラタの一部):ヨガの最重要テキストの一つ。
- カルマ・ヨーガ(行為のヨガ):結果への執着なき行為。
- ジュニャーナ・ヨーガ(知識のヨガ):識別知による解脱。
- バクティ・ヨーガ(献身のヨガ):クリシュナへの完全な帰依。
- アビヤーサ(修習)とヴァイラーギャ(離欲)の重要性。
多様なヨガ流派の形成
- マヌ法典・アルタシャーストラなどにもヨガ的実践の記述が見られる。
- 様々なサンプラダーヤ(宗教的系譜)がそれぞれ独自のヨガ体系を発展させた。
Feuerstein はこの時期を「ヨガの創造的爆発」と呼び、インド精神文化の豊かさの象徴として位置づける。